幻滅されないために

好きなものを「好き」と公言するのは難しい。

好きだと言って、そこから会話を続けるのが非常に難しい。

そもそも相手がそれを知らない、または興味が微塵も無い場合もあるし、場合によっては相手の嫌悪するものだったりする。

今までの人生、ほとんどと言っていいほど上記のどれかの反応をされているので、「何が好き?」と聞かれた時は無難な回答をするようにしている。

「動物何が好き?」「犬か猫」みたいな。

そして相手に同じことを聞き返す。そこから会話を広げる。

自分発信で会話が続かないのは、上手いプレゼン能力が無いからだと理解はしているが、相手が気持ちを一瞬後退させるような目はなかなか心に来るものがある。

 

同じような嗜好かもしれない人間に出会った時、自分もそうであるとどうにかアピールできないか、と考える。

これもなかなか難しい。踏み込みを間違えると、これもまた引かれてしまうからだ。

隠れキリシタンが同志を見つけるために地面に線を引いたように、本人らには分かりやすく、他の人間には伝わりづらい合図でもあればいいのに、と思う。

 

先日、映画の話をしていてそのような状況に陥ったのだが、こういった場合はどうすればいいのか。

好きな映画のDVDのジャケットをチラ見せする……のは仕事中だし嵩張るし、他の人間も訝しむだろう。

扉の隙間から顔を出して「ヒアーズジョニー!」って言えばいいのか。これなら良さそうだ。

ただこれはあまりにも有名なので、映画を見ていなくても知っている可能性がある。

白い手袋をつけて、「卵を貸してください」と言うのはどうだろうか。

これだけのために手袋をいきなり取り出したら驚かれるので却下だ。

天気が悪い日に「霧の中に何かがいる……!」と言ってみる。行けそうなら「神の裁きだ……」とかも加えて。

これはなかなか良さそうだ。他の人は冗談だと思うだろうし、わかる人にはわかる。

 

まあこういうことをいくら考えても、使いどころなんてほとんど来ないだろうけど。そもそも雑談をあまりしないので。

そうこうしているとまた新たな質問が来て、その時もきっと無難な答えを返すのだろう。

「好きな食べ物は?」「甘いもの」みたいな感じで。